はじめに
Apple Watchには、ユーザーの健康状態をモニタリングするための多様なセンサーが搭載されています。その中でも注目されているのが「手首皮膚温センサー」です。これは、睡眠時の体温変化やホルモン周期の把握に活用できる機能として、Series 8以降のモデルに搭載されました。本記事では、Apple Watchの手首皮膚温センサーの仕組み、対応モデル、取得できるデータ、実用上の注意点などを、事実に基づいて解説します。
手首皮膚温センサーとは何か
手首皮膚温センサーは、Apple Watchの背面に内蔵されたセンサーで、ユーザーの手首に接触している皮膚の温度を継続的に計測する機能です。ただし、この温度は「体温計による体温」ではなく、皮膚表面の温度を元にした変化量(相対的な差異)を測定するものであり、医学的な診断には使用できません。
Appleはこの機能を「睡眠中に手首の皮膚温の変動を計測することで、身体のリズムや変化を把握するための参考データとして活用する」と説明しています。
皮膚温センサーの仕組みと測定条件
Apple Watchは、赤外線センサーと温度センサーを併用して手首の皮膚温を計測しています。以下のような条件下で測定が行われます。
- 就寝時にApple Watchを装着していること
- 睡眠モードがオンになっていること(ヘルスケア設定または集中モード)
- バッテリーが十分にあり、夜間にWatchが稼働していること
- 測定は1回ではなく、複数日(通常5日間)にわたる継続データから基準値が形成される
測定されたデータは、iPhoneの「ヘルスケア」アプリ内に記録され、「皮膚温の変化量(前日との差)」としてグラフで確認できます。
対応モデルとwatchOSの要件
手首皮膚温センサーは以下のモデルでのみ利用可能です(2025年6月現在)。
- Apple Watch Series 8
- Apple Watch Series 9
- Apple Watch Ultra
- Apple Watch Ultra 2
これらの機種には温度センサーが内蔵されており、watchOS 9以降が必要です。SEシリーズやSeries 7以前のモデルには皮膚温センサーが搭載されていないため、この機能は使用できません。
皮膚温センサーの主な用途と活用方法
Appleが公表している皮膚温データの主な活用用途は以下の通りです。
1. 睡眠時の体調変化の検出
皮膚温が通常より高くなることで、発熱傾向や代謝の変化、睡眠の質の変動を把握できます。ただし、Apple Watchは医療機器ではないため、発熱の診断や正確な体温測定はできません。
2. 月経周期・排卵予測(ヘルスケアアプリ)
皮膚温の変動パターンをもとに、月経周期の予測や排卵推定を行う機能が導入されています。ヘルスケアアプリの「周期記録」機能と連携することで、より精度の高い傾向分析が可能です。
3. 長期的な健康モニタリング
皮膚温は、睡眠時間や活動量とあわせて健康傾向を確認する指標となります。たとえば、皮膚温の変化と心拍数、呼吸数、睡眠時間をあわせて見ることで、ストレスや体調不良の兆候を読み取る手がかりになります。
皮膚温データの見方と取得方法
取得した皮膚温データは、以下の手順で確認できます。
- iPhoneの「ヘルスケア」アプリを開く
- 「ブラウズ」→「バイタル」→「手首の皮膚温」を選択
- 日別・週別・月別の変動グラフが表示される
表示される数値は「基準との差異(例:+0.30℃、−0.25℃)」として記録されており、直接的な絶対温度ではありません。
手首皮膚温センサー利用時の注意点
正しく測定結果を得るには、以下の点に注意が必要です。
- バンドは手首にしっかり密着させる(ゆるすぎると誤差の原因)
- Apple Watchは睡眠中ずっと装着している必要がある
- 手首が冷えすぎている場合、測定が不安定になることがある
- ヘルスケアアプリ内の「睡眠スケジュール」または「集中モード:就寝」が有効であること
- Apple WatchがwatchOS 9以降であることを確認
また、データが取得されるまでには最低でも5晩の測定が必要となり、1日だけの測定結果では基準が形成されません。
医療機器ではない点に留意
Apple Watchの皮膚温測定機能は、医療用体温計の代替にはなりません。発熱の有無を確定するには、別途、体温計を使用して実測値を確認する必要があります。
また、Appleはこの機能について「健康上の気づきの参考」として位置づけており、医療診断や治療には使用しないよう明記しています。
まとめ
Apple Watchの手首皮膚温センサーは、健康やホルモン変動に関する重要な指標を継続的に把握するための機能として有効です。Series 8以降のモデルに搭載されており、睡眠中に温度変化を記録することで、日々の体調管理や月経周期の把握などに活用できます。医療目的ではなく、日常的な傾向の把握ツールとして、正しい条件で運用することが推奨されます。